(電話のベルの音) |
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比呂子
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はい、田中でございます。 |
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五郎 |
もしもし、田中様のお宅ですね。私、ポケットコーダー社の山本と申しますが、
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お嬢様の比呂子様、おいでになりますでしょうか。
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比呂子 |
はい、私が比呂子でございますが、どちらの山本様でしょうか。
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五郎
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ハハハハ・・・、気取っちゃってー。
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比呂子 |
あ、その声、ゴロチャンだ。おひさしぶり。
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五郎 |
どうも。
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比呂子 |
今、ちょうど、大学時代のお友達の結婚式に出て、帰ったばっかりなの。あらたまっ |
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服装をしていますから、話し方も、ちょっと、お上品にね。 |
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五郎 |
比呂子さんとは、高校の同窓会の時、会って以来だから、もう2年になりますね。 |
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比呂子 |
セールスマンになったって、誰かから聞いたけど、セールスマンになると
ゴロ |
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チャンも、さっきのような、あんな話し方するように変わるのね。でも、陽気で元気で
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のんきなのは、相変わらずなんでしょう。
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五郎
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それがね。陽気でのんきなのは変らないけど、のんきの方は、すっかり変わってしまっ |
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て、いやもう、忙しい、忙しい。 |
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比呂子 |
そう、そんなに? |
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五郎 |
営業課長とね、それから、外回りのセールス担当が、僕を含めて五人、この六人で、 |
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会社がもっているといってもいいね。 |
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比呂子 |
へえー、じゃあ、忙しいでしょうね。ほかには、どんな人がいるの? |
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五郎 |
なんにもしない社長と、パートの女の子と、それに、こわーいおばさんが一人。 |
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比呂子 |
こわーいおばさん? |
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五郎 |
そう、実は、そのこわーいおばさんが、今度、会社を辞めることになって、代わりの人 |
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を捜しているんだけど、比呂子さん、その仕事を引き受けてくれる気は、ないかなー。 |
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比呂子 |
・・・私に、こわいおばさんになれって、おっしゃるの?! |
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五郎 |
あっ、誤解、誤解。えー・・・、比呂子さんは大学で英文科の専攻だったし、タイプも |
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できるし、英語もペラペラだし、やさしいし、美人だし、誰からも好かれるからこの |
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仕事には、ぴったりだよ。 |
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比呂子 |
五郎さん、セールスマンになってから、すっかり口がうまくなったわね。じゃ、あした |
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会って、詳しくうかがうわ。それから決めても、いいですよね。 |
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五郎 |
オーケー、そうこなくっちゃ。ちょっと待って、手帳を見るから・・・
。うーん・・・ 。 |
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あしたは、大学時代の先輩と約束があるから、ちょっと無理だなあ。あさっての午後 |
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は? |
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比呂子
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あさっての月曜日の午後は・・・残念ながら先約があるし、6日の火曜日は? |
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五郎 |
うーん・・・
。火曜日は、仕事で静岡へ行くはずで、一日中ダメだろうな。その翌日の |
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水曜日は? |
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比呂子 |
そうねえ。午後4時以降なら、だいじょうぶよ。大学でお世話になった先生が入院 |
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なさったの。それで、病院にお見舞いに行く事になっているんだけど、面会の時間は |
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2時からだから。
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五郎 |
じゃ、7日の水曜日にしよう。どこで? |
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比呂子 |
午後4時に、目白駅前の喫茶店「椰子の実」で、あそこのチョコレート・パフェおいし |
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いわよ。ちょっと高いけど。 |
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五郎 |
この際、なんでも、ごちそうするよ。 |
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比呂子 |
じゃ、その時に、またね。お電話どうもありがとう。 |
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五郎 |
うん。じゃ、4時に「椰子の実」で。来週の水曜日ね。よろしく |
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比呂子 |
ええ。こちらこそ、よろしく。さようなら。 |
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