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明子
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まあ、すごい人出ですね。さすがは、年に一度の時代祭だわ。
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マイク
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そうですね。それに、VIP用の招待席で、見物できるなんて、比呂子さんのおばさん
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に感謝しなければいけませんね。とっても、ついていますよ。 |
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明子
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それにしても、五郎さんと比呂子さん、遅いですね。
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マイク
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あれ? どこへ行ったんですか。
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明子 |
さっき、フィルムとアイスクリームを買いにいったまま、まだ戻らないんです。
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そろそろ、お祭の行列がこの地点に来るというのに・・・。 |
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マイク
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カメラだったら、ここにズームレンズ付きのキャノンを持って来ているのに。
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明子
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私もそう言ったんですが、自分のカメラのフィルムが切れかけているとか言って・・・。 |
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マイク |
ほら。もう、行列の先頭がこちらに進んできました。 |
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明子
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本当。ピーヒョロ、ドンドンドンって、笛とたいこの音が聞こえてきましたね。
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えーと、行列の先頭は、明治維新で活躍した人達を従えた「鼓笛隊」。マイクさん、 |
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この案内書にも書いてありますよ。 ほら、裏側に英語の説明文が出てますよ。 |
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マイク |
いや、いや。日本語の方が分かりやすいですよ。英語版はいい加減なものが多い |
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ですからね。 |
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明子
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それに、日本の歴史は、やはり日本語で読まないとおもしろくありませんよよね。 |
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それにしても、比呂子さんたち遅いですね。どうしたのかしら。 |
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マイク
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この人出だし、迷ったのかもしれませんね。 |
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明子
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あ、江戸時代がすぎて、次は安土桃山時代の行列です。 |
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マイク
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「織田信長の上洛の列」ですね。明子さん、すみませんが、このカメラで写真を |
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お願いします。 |
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明子 |
はい。じゃ、鎌倉時代の「やぶさめの列」が来てますから、それを入れて撮り |
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ましょうか。 |
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マイク |
はい、お願いします。それはそうと、「やぶさめ」って、何ですか。 |
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明子 |
中学校の歴史の時間に習ったんですが、鎌倉時代の武士が、馬に乗って走りながら |
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弓矢の的を打って、競う競技だったらしいですよ。ほら、勇ましいでしょう? |
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マイク |
ふーん。明子さんは、日本の歴史には詳しいんですね。 |
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明子 |
いえいえ、それほどでもありませんよ。でも、時代祭って、おもしろいですね。 |
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だって、こうして一ヵ所に座ったままで、明治維新からさかのぼって、平安時代まで |
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の千年の歴史が、まるで、動く絵巻物のように、見られるんですもの。 |
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マイク |
同感ですね。このパンフレットに「時代祭は、祇園祭、葵祭と並んで、京都の |
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三大祭のひとつである」と書いてありますね。 |
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明子
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ええ、マイクさんも、来年は祇園祭を見にいらっしゃったらいかがですか。 |
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7月17日の山鉾巡行(やまぼこじゅんこう)、それから、その前夜祭にあたる宵山 |
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(よいやま)に、昔のままの小路を歩くのは楽しいですよ。 |
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マイク
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そうですか。でも、残念だけど、来年の7月は、もうイギリスに帰って、どこかに |
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勤めているでしょうね。できれば、大学に戻って、研究を続けたいのですが・・・。 |
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明子
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え? もうイギリスに帰国なさるんですか。・・・・いつですか。 |
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マイク
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あと、2ヵ月で・・・。 |
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明子
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そうですか。せっかくお知り合いになれたのに残念だわ。あ、今度は白馬に |
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またがった「巴御前(ともえごぜん)」が見えてきました。 |
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マイク
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どれどれ? |
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明子
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巴御前は、平安時代の終りに活躍した木曾義仲(きそのよしなか)の愛妾で、美人で |
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武芸も達者で、戦場でも、いつも義仲と一緒だったらしいですよ。 |
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マイク
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木曾義仲って、源義仲(みなもとのよしなか)のことですよよね。 |
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明子
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そうです。このパンフレットによると、「1180年にくりから峠で平氏の軍勢を |
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破り、京都に進み、自ら
朝日将軍と名乗って、征夷大将軍(せいいたいしょうぐん) |
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になった」と書いてあります。 |
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マイク
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義仲といえば、将軍になって間もなく、いとこの源範頼(みなもとのよりのり)と |
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義経(よしつね)の軍に亡ぼされてしまうというあわれな運命を背負った武士でした |
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ね。 |
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明子
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そして、義仲は戦死し、巴御前は行方不明になって・・巴御前は、後に尼さんになった |
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とも言われています。 |
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マイク
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そういえば、義仲と巴御前の話は、よく、映画やテレビドラマにとりあげられていま |
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すね。 |
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明子
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マイクさん、よくご存知ですね。あ、次は、華やかな平安時代の婦人列ですよ。 |
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あの小さい子供を三人連れているのが常盤御前(ときわごぜん)です。 |
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マイク
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源義朝(みなもとのよしとも)の奥さんですね。 |
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明子
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そう。義朝の死んだ後、彼女が三人の子供を連れて、六波羅(ろくはら)に名乗り |
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出た時の姿をあらわしています。 |
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マイク |
あの三人のうちの一人が、牛若丸ですね。 |
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明子
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ええ、あの一番小さい子だと思います。 |
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マイク |
あのオープンカーに乗っているのが、この案内書によると、紫式部(むらさきしきぶ) |
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と清少納言(せいしょうなごん)ですね。 |
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明子
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ええ、そして、あとに続くのが、女流家人、小野小町(おののこまち)です。 |
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小野小町は文才があっただけでなく、絶世の美人だったと言われています。 |
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マイク |
そうでしたね。・・・明子さんも着物が似合いそうですね。・・あ、やっと五郎君と |
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比呂子さんが戻ってきましたよ。二人とも、アイスクリーム・コーンを両手に持って。 |
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