場面：田中比呂子の入社第１日目、新しい同僚のマイケル・グリーンに会う。

　

比呂子	グリーンさん、おはようございます。今日はわたしの入社第１日目、どうぞ よろしく
	お願いします。
マイク	おはようございます。「グリーンさん」と呼ばずに、「マイク」と呼んでくれま
	せんか。
比呂子	はい、じゃ、わたしも「比呂子」でお願いします。
マイク	それでは、比呂子さん、こちらこそよろしくお願いします。先週の面接の日、電話
	レッスンについて簡単に話しましたが、今日は、まず、月曜日のタイムテーブルに
	ついて詳しく説明しましょう。
比呂子	はい。お願いします。
マイク	この表を見ながら聞いてください。
比呂子	はい。
マイク	今日、電話レッスンを受ける生徒は六人います。えー、１時からは前田さんで、３０才
	の主婦、お子さんが二人います。 １時半から井上さん、井上さんは東京芸大、美術
	専攻の学生です。 それから、２時からは上田さんで、彼はホテルの営業マンです。
	２時半の生徒は、だれもいません。
比呂子	でも、２時半の欄に江島と書いてありますね。
マイク	ええ、でも、江島さんは今ニューヨークに出張中で、来月まで帰らないそうです。彼
	は貿易会社につとめていますから、外国出張がよくあります。この方は社長の遠縁に
	あたる方で、半分、義理でポケットコーダーを購入されたと聞いています。
比呂子	あー。そうですか。えーと、３時からは大木さんとなっていますね。
マイク	はい、この方は６５才で、月曜日の受講者の中では一番の年長者です。３８年間、
	区役所に勤めて、数年前定年退職してから、趣味で英語を勉強している方です。
比呂子	へえー、いろんな方がいらっしゃるんですね。
マイク	はい。大木さんの夢は英語がじょうずに話せるようになって、もらった退職金を
	そっくり使って、奥さんと世界旅行をすることです。奥さんは小学校の先生をして
	おられた方と聞いています。
比呂子	わー、すてきなご夫婦ですね。
マイク	それから、次が片山さんで、３時半からです。青山の喫茶店のマスターですが、
	たいてい留守です。
比呂子	じゃ、お留守の場合はどうするんですか。
マイク	電話に出た方に、ポケットコーダー社から電話のあったことを伝えてもらうように言
	ってください。だれも出なければ欠席のしるしをこの表に書き込んでください。
比呂子	はい。わかりました。そうします。
マイク	それから、時々、物好きな人が電話に出て、本人がいない時、本人のふりをして、
	変わりにレッスンを受けたがる人がいます。
比呂子	ウフフフ・・・ 。 そんな時はどうするんですか。
マイク	そんな時は、特にこだわらず、こちらもだまされたふりをしてレッスンを進めれば
	いいでしょう。 この間、前田さんに電話した時には、ご主人が出て、「いつも家内が
	お世話になっています」とか言って、お礼に日本語のレッスンをしてくれました。
比呂子	それじゃ、文字通りの「主客転倒」ですね。
マイク	そうです。それから、今日の最後の生徒は小山さんで、自営業です。彼は薬剤師で、
	このすぐ近くのバス停前のだるま薬局の店主です。
比呂子	ああ、知っています。最近、フイルムやビデオテープの販売も始めたお店ですよね。
マイク	そうです。写真の現像と焼き増しが３０分でできるところです。
比呂子	へーえ。便利ですね。ところで、この方々の中でだれが一番熱心ですか。
マイク	もちろん、大木さんです。大木さんは目的がはっきりしていますから。それから、一番
	会話がじょうずなのは出張中の江島さんです。
比呂子	今月いっぱい、ニューヨークに出張中の方で、えー。社長さんのご親戚の方ですね。
マイク	そうです。月曜日に登録されている生徒は七人となっていますが、先月末のデータに
	よると、月曜日から金曜日まで合わせて、全部で四十五人です。まだまだこれから増え
	そうですから、毎回各生徒とどんな話をしたか、メモをとって覚えておいた方がいい
	です。
比呂子	はい。そうします。他に、何か気をつけることはありませんか。
マイク	そうですねえ・・・ 。いつも楽しい会話をして、話が弾むことが大切です。いつも同じ
	じゃつまらないですからね。
比呂子	そうですね。よくわかりました。そのように心がけます。
マイク	ええと・・・あ、それから、やる気がないのは片山さんです。彼はポケット
	コーダーを購入してからまだ一度も電話レッスンをしていません。
比呂子	もったいないですね。わたしの買った百科事典もそうです。推しの強いセールスマンに
	勧められて、むりやり買わされてから、一度も使っていないんです。「特別サービス
	本箱付き」というふれこみで、つい、つられて買ってしまったんです。
マイク	・・・・・！？